菊川の家

House in Kikugawa / 2014 /

山陰地方特有の石州瓦葺きの民家が点在する通りを過ぎ、山里の集落にある敷地をはじめて訪ねたのは初夏だった。その地は西側に山の緑が鬱蒼と溢れ、遠くには牛が放牧され、田園には白鷺が舞い降り、ケラの鳴き声が谺する日本の原風景そのものであった。
その恵まれた環境には、おおらかで純粋な周囲に馴染むフォルムが相応しい。そこで、奥行きのある三日月形の敷地に、36mの単純な小屋組の切妻屋根をそっと架けた。大屋根の下には母屋と離れがあり、それを繋ぐようにピロティを配置した。天候に左右されず屋外で食卓を囲みたいという、建主の数少ない要望を汲んだものである。母屋と離れの室内からもピロティの存在は常に意識されるが、建具を戸袋内に引き込むことで内外の隔たりがなくなり、大屋根全体の一体感が高まる。戸袋であり外壁でもある下見板張りの素地スギ板は、深い軒に守られ直接風雨に曝されることなく、やがて味わい深いシルバーグレーになり、より一層風景に溶け込んでいくだろう。西側に開けた敷地の特性上、開放的な室内空間を設えるには強い陽射しや通りかかる人びとの視線を和らげる緩衝空間が必要であると考え、20本の細い列柱によって支えられる一間幅の外廊下を配した。また、この空間にはアプローチとしての機能もあり、北からは客人を、南からは最奥にあるもうひとつのピロティに車を駐めた建主一家を、大屋根の中心に据えた玄関へと誘う。室内から外廊下越しに景色を眺めると、柱と足固めの矩形が四季折々の風景を一幅の絵のように切り取る。
常々、在来工法の大工の手仕事による架構に本質的な美しさを感じており、上棟時の骨格をできる限り残し、仕上げには木や土、漆喰、石といった伝統的な素材を用いた。この地の澄んだ空気と相俟って、どこか心地よい空間になると信じている。
落成の晩秋、居間に1匹のトンボが入り込み、飄々と飛び回っていた。


ピロティから西を見る。1間(1800mm)ピッチで連なる90mm角の柱が、桁と足固めと共に豊かな景色を切り取る。
小屋組は大工による手刻みで加工され、内外連続している。


北側外観。外壁の素地スギ板下見板張りは、時間の経過と共にシルバーグレーになり、より一層風景に溶け込んでゆく。


外廊下。軒回りは同一の架構が19間連続する。


離れからから母屋を見る。20本に及ぶ列柱と上下の横架材が緩衝空間(外廊下)をつくり出す。
左手のスギ板下見板張りの外壁が戸袋としての役割も担う。


西側は深く張り出す軒下に外廊下を設け、陽射しを遮ると共にプライバシーを確保する。


外廊下から居間を見る。右手の大谷石の腰壁の奥は台所。


居間から西側を見る。開放的な大屋根の空間ながらも桁の下端で高さを1,950mmとし、重心を低く設え水平方向への広がりを強調する。


戸袋から簾戸を出した姿。



食事室。大黒柱はクワ材を八角形に加工。


玄関扉。銅板と木格子。


玄関から食事室・離れを見る。玄関天井は葦を錆竹押え。


洗面台。天板は黒御影石磨きを工場にて加工。


浴室。天井・壁は米ヒバ。腰壁・床は十和田石。


離れの客間。簾戸の経木越しに柔らかな光と景色を取り込む。


客間の地窓。


火灯口の奥は書斎。


南側から見る外廊下。


南側外観。最奥にあるもうひとつのピロティに車を駐めた建主は、外廊下を通り雨に濡れること無く玄関へと誘う。


西から見る全景。細長い三日月状の敷地を活かし、軒高を抑えた約36mの小屋組に緩勾配の切妻屋根を架けている。



西側から見る夕景。室内の明かりが経木越しに柔らかく周囲を照らす。


Photo : Ken’ichi Suzuki


概要

設計 : 下川 徹 (担当 / 種子島由佳)
施工 : 山下建設 (担当 / 山下裕大 棟梁 / 吉良和久)

所在地 : 山口県下関市
用途 : 専用住宅
主体構造 : 木造在来工法
規模 : 地上1階
建築面積 268.91㎡
延床面積 126.36㎡
設計期間 2013年6月~2014年2月
工事期間 2014年3月~2014年9月


掲載誌

『JA』102号 / P.14~15 (新建築社)
『新建築住宅特集』2015年12月号 / P.20~29 (新建築社)
『コンフォルト』No.145 創刊25周年号&リニューアル記念号 / P.15~27 (建築資料研究社)
『Pen』No.379「いま注目すべき、若手建築家の仕事。」/ P.158~161 (CCCメディアハウス)


模型